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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)947号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人鍛冶利一、同荒木清上告趣意第二點について。

しかし、所論豫審判事代理の訊問調書には被告人が最初から強盗の目的で判示池田正男方に押入り金品を強奪しようと考えていた旨の供述記載が存し、その供述は所論の他の供述と不可分の一體をなすものではないからその供述部分を採って事実認定の資料としても所論の違法ありといえない。また、強盗の目的ある場合には一般の観念上刄物を買求めるのが普通で斧を買う筈がないとの経験則は存しないから、強盗の目的で斧を買求めた趣旨の司法警察官の第一回聽取書における被告人の供述記載を採って被告人が最初から強盗の目的で押入ったものと認定したからとて採證を誤った違法ありとはいえない。論旨はその理由がない。

同第三點について。

しかし、原判決は、本件強盗殺人罪の構成要件たる犯罪事実の全部を被告人の自白だけで認定したものではなく、單に「被告人が最初から強盗の目的で判示池田正男方に押入り金品を強奪しようと考えていた」という犯罪事実の一部を豫審判事代理の訊問調書竝びに司法警察官の第一回聽取書における被告人のこれと同趣旨の供述記載と原審公判廷における被告人の供述によって認められる被告人が犯行當日の朝金物商から判示手斧一挺を買求めこれと豫て護身用に持っていた判示短刀一本とを携えて判示池田正男方に赴いた事実と被告人が判示正男から誰何されていきなり右の手斧で同人に斬りつけて君江にも同様斬りつけた事実とを綜合してこれを認定したものである。そして原判決は本件犯罪事実全體としては、被告人の供述の外検證調書、鑑定書、手斧、短刀等他の證據をも綜合して認定したものであるから被告人の自白を唯一の證據として犯罪を認定したものとはいえない(昭和二二年(れ)第一五三號同二三年六月九日宣告大法廷事件判決参照)。それ故原判決には所論の違法はない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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